2012年5月31日木曜日

空間認知能力による判断

空間認知能力による判断

「方向オンチ」かどうかは、頭の中に街の様子をイメージしたり、
地図上での自分の位置と目的地の位置を読み取り、
それを現実にどのくらい対応させられるかといった能力に関係しています。
そのため、ものの空間的な位置関係を頭の中で
どのくらいうまく操作できるかを測定する
「メンタルローテーションテスト」や「空間関係テスト」がよく使われます。
メンタルローテーションは、「心的回転」と訳されることもあります。
例としてあげれば、積み木を重ねたような図形の絵をみて、
それを回転させたときの形をうまく思い浮かべることが
出来るかどうかを調べる課題などがあります。

このメンタルローテーションテストは、
人のイメージ操作能力を測定する課題として
心理学の分野ではよく使われます。
回転角の大きさが180度に近づくほどに答えを
見つけるまでの時間が長くなるなど、
さまざまなことが調べられます。
実際に街を歩いてる時などに、
「あのビルは、反対から見たらどう見えるのだろう」
というようなことをイメージするために、
図形などのイメージを空間的変換する能力が必要です。

街をうまく移動するための知識と技術4

自己認知

街の中で自分がどこにいるのか、
目的地に行くためにはどちらに行ったらいいのかわからなくて
不安になったこともあります。
しかしそうした経験をひとまとめにした上で
「それは私が方向オンチだから」
と考えるのはやめた方がよいと考えています。
自分自身を高く評価しようということなのです。
自分はどのような人間で、どういう考えかたをするタイプかを
自分自身で評価することを心理学の分野では、
「自己認知」と呼んでいます。
すなわち自分自身を認識することが自己認知です。
自己認知のあり方は、その人の行動や考え方に
強く影響するということが知られています。


自分は方向オンチだと思うかどうかということも
自分のナビゲーション能力に関する自己認知の一種と言えます。
街の中の移動は技術なのです。その技術は、
ちょっとした心構えと事前の準備で身につけることができるものなのです。
もちろん、それでも迷うことはあるでしょう。
その時には、外的資源、すなわち近くを歩いている人、
を活用してルートを修正します。

街をうまく移動するための知識と技術3

外的資源の利用

マンガ「ドラえもん」のどこでもドア」をご存知ですか?
行きたい場所の名前さえ言えば、目的地に行ける魔法のドアです。
これをいつも使えば、のび太やドラえもんは方向オンチという
自覚を持つことなく、迷子になることなくどこにでもいけるでしょう。
道具は私たちの問題解決能力をサポートしてくれますが、
同時に自力で解決する能力を奪うことにもなります。
したがって、道具を使うことの利益と失うかもしれない
能力の間のトレードオフを理解しておく必要があるでしょう。
また、最新の機器
(GPSやPHSなどによる位置情報を利用したシステム)と並んで、
古くからある「情報システム」ももっと活用できるはずです。


その情報システムとは「人」のことです。
街の中にはたくさんの人が歩いています。
もちろん、通りすがりの人もいるでしょう。
けれども、非常に多くの人はその地域のエキスパートで、
それぞれがその地域の認知地図を持っています。
そうした人に道を尋ねると言うにはよい方法です。

街をうまく移動するための知識と技術2

記憶の技術

街を移動するときだけの話ではありませんが、
私たちはいろいろな情報を入手し、
それをあとで利用するために記憶します。
記憶するときにもさまざまな技術があります。
たとえば、電話番号はそう思えているでしょうか。
おそらく自宅の番号なら考えるまでもなく
ぱっと言えるのではないでしょうか。
これは脳の中に長期的な保存スペースに保存されているからです。
それに対し、自分にかけることがほとんどない
携帯番号は忘れがちではないでしょうか。


また、お店等の調べた番号へ電話するときに、
口の中で呟きながらかけていることはないだろうか。
これは「リハーサル」と言って、
情報を記憶にとどめるために役に立つ技術です。
私たちが街を移動するときにも、
道を覚える必要があり目的地までの道を見つけ出すと
同時に帰り道で迷わないように覚えておかなくてはいけません。
このとき重要なのは、適切な情報を見つけ、
それを記憶にとどめることです。
そしてもう一つ重要なことは、あまり覚え過ぎないことです。
街にはさまざまな情報があります。
そのすべてを覚え込もうとしてもそれは不可能です。

街をうまく移動するための知識と技術1

情報を見出す技術

街の中にはさまざまな情報があふれています。
私たちが目的地に向かうときの手がかりになる
情報もたくさんあります。
そうした手がかりを見つけ出し利用するためには、
若干の訓練が必要です。
これは車を運転する時に曲がり角にあるカーブミラーを
利用することを考えればわかります。
見通しの悪い曲がり角にはカーブミラーが立っています。


しかし、運転免許取り立ての初心者には、
カーブミラーを見落としたり、
曲がった先の方ばかり気を取られていてカーブミラーに注意がいかない。
しかし、ある程度運転経験を積み、
カーブミラーの利用の仕方になれてくるものです。
街の中にはさまざまな「カーブミラー」の役割を果たす、
移動に役立つ情報がたくさんあります。
駅などある案内板、信号下にある交差点の名称など、
また、銀行やデパートがあれば、
私たちは近くに駅があるはずだと推論します。
さらに人々の流れから駅・繁華街のある方向を推論したりします。

目の見えない人はどうしているのか

目の見えない人はどうしているのか

白い杖をもった目の不自由な方が街を
歩いているのを見かけることがあります。
中には、手伝いを必要といないかのように、
雑踏の中をすいすい歩いている人もいます。
こういう方々は、いったいどのような知識をもち、
どのような情報を手掛かりにして、街の中を移動しているのでしょう。
目の見えない人たちは、あたかもコウモリが
自分の発した音の反響を手がかりにするように、
白杖でたたいた反響音を手がかりにしています。


なお、風の流れであるとか、人・自分の足音、
雑踏の様子などを手がかりに自分の入りを見極め、
次へのナビゲーションの手がかりとしています。
目の見えない人ならではの特殊能力という意味でしたら、
それはちょっと違うようです。
もちろん、見えない人は目の見える人ほど効率よく移動はできません。
しかし空間認知の研究データでは、
目の不自由な人も何度か移動しているうちに
目的地までの経路を学習が、目の見える人とほとんど
同じレベルにまでなる結果が得られているそうです。

インタラクティブな技術としてのナビゲーション

インタラクティブな技術としてのナビゲーション

方向オンチの人は移動能力に劣っているというのではなくて、
外部にある役に立つ情報を、その場面に応じてインタラクティブに
使うのが苦手である人と考えています。
これはその人が他者に依存しがちであるため自分で他界の情報を
利用するのになれていなかったり、
それらの情報の使い方を学んでいなかったりするために起きるようです。
そうだとしたら、方向オンチの人にうまく外的情報を
利用できるように教育したり、ナビゲーションを
うまく行うためのさまざまな支援情報を整備することによって、
それらの人々の行動を変えることができる可能性があるのです。


街の中を移動するためには技術が必要です。
それは、パソコンを使うためにはコンピューターに関する
基礎的な知識が必要であり、ビデオを録画するためには
録画の方法に関する知識が必要であるのと同じことです。
また、それと同時に、移動が技術であるとするならば、
その技術を援助するための道具があります。
ただし誰もがその道具を簡単に使いこなせるかどうかは別の話です。

問題解決としてみる方向オンチ

問題解決としてみる方向オンチ

一般的には、方向オンチは個人の属性の一つで
あると考えられています。
すなわち、足の速さ、歌のうまさ、
頭のよさがその人のなんらかの能力に対応しているように、
方向オンチとそうでない人がいて、
それが人の空間能力の高低と関係しているというものです。
しかし、方向オンチをそのようなものとして考えない方が、
私たちの生活にとってよりよい結果を産むのではないかと考えています。


というのは、現在私たちの周りには、
ナビゲーションを行うときに利用できるさまざまな情報があります。
そういう環境の中で移動するときに、いったい、
北の方向が正確にどちらなのか、自分が歩いてきた
道の正確な方向を知る能力がどれぐらい役に立っているのでしょうか。
人の空間認知能力のなかではオリエンテーション
(目的のものがある方向を認知する能力)が重要であると言われています。

インタラクティブな技術

インタラクティブな技術

自分が持っている能力を十分に発揮できない
場面はしばしばあります。
それが、能力がなくてできないのか、
それとも能力はあるけれどもなんらかの理由でその能力を
発揮できないのかを区別することは重要です。
方向オンチを語る時も、空間能力があるのかどうかという
能力の存在に関する議論と、持っている空間能力を
発揮できるかどうかの議論を分けて考えることが必要。
認知科学の分野では、この前者の意味で能力を「コンピテンス」、
後者の意味での能力を「パフォーマンス」と呼んでいます。


私たちが関心を持っているのは、
空間認知に病的な傷害を持っていないにもかかわらず、
空間に関わる作業をうまくこなせない人たちなのです。
昔の人は自分の住んでいるところからほとんど離れることがなかった。
家と畑・勤務先・学校などへの往復をしている人にとっては
自分が方向オンチであるかどうかはあまり関心がなかったのでしょう。
その逆に非常に活発で初めての場所に臆せず行こうとする人が、
失敗の経験を多く持つこと考えられ、そうした人が自分は
「方向オンチ」だと思い込んでしますのかもしれません。
しかし、その人の移動能力(コンピテンス)を低いと考えるよりは、
自動の場面におけるパフォーマンスが
うまくいっていないのだと考えた方がよいのではないのでしょうか。

方向オンチの正体

方向オンチの正体

1、個人の移動能力、方向を定位する能力の問題。
これは一般に広く信じられている考え方

2、生まれつきなのか。
個人の能力であるならば、生まれつき方向オンチの人や
生まれつき方向感覚の良い人もいるはずです。
もしそれが事実なら、親が方向オンチだと子供にも遺伝する。


3、方向オンチの人は空間移動が下手。
方向オンチだと思っている人は、
ある場所から他の場所に移動するときによく迷ったり、
今いるところの東西南北を判定したり、
目的地に着いた後で出発地のある高校を指さしたりするのが苦手。

この三つに対する答えがどれもYESであるならば、方向オンチは、
個人の能力であり方向オンチの善し悪しという一つの軸にそって、
人を(あたかも、学力の偏差値や知能指数、あるいはマラソンの順位のように)
順序よく並べることができるものであるということになります。

方向オンチの自覚を持つ人はたくさん尋ねる

方向オンチの自覚を持つ人はたくさん尋ねる

方向オンチだと思っている人ほど道案内や
他の人に助けを求めることが多いです。
実験で、道案内サービスを利用したルートを
歩いた距離と道案内サービスの利用回数を調べた。
結果は必ずしも明確な関係があるとは言えませんが、
自分が方向オンチだと思っている人の方がより
たくさん質問するということ、そしておそらくそのために誤りが速く訂正され、
方向オンチだと」思っている人ほど迷う距離が長くなるわけではないのです。


さらに興味深いことが、なまじ自分の能力に自信を持っていると
逆に苦労することがあります。自信を持っているから自分で
目的地を探そうと歩きまわり、最短距離の二倍近くも歩く羽目になってしまう。
それに比べ、自分が方向オンチと自認している人は、
自信がないために途中の大きな党利に出た時や分岐点で
確認の連絡を何度も入れ、ほとんど迷わずに目的地に到着しているのです。
自分の能力に自信を持っている人たちは、まさにそれゆえに
「人に道を聞くのは恥ずかしいこと」と思っている側面もあるそうです。

2012年5月30日水曜日

道に迷うということ

道に迷うということ

私たちはいろいろな場面で道に迷います。
いまだかつて道に迷ったことのないという人はいないでしょう。
自分のことを方向オンチではないと思っている人でも、
道に迷ったことはあるはずです。
それは、目的地の情報が不十分であれば、迷うのも当然だからです。
しかし、目的地にたどりつくための情報は十分にあり、
他の人ならばほとんど迷わないような場所で迷ってしまうような
状況に関心を持ってしまいます。


同じ場所で迷う時、初めての場所で迷う時
目的地に関する情報が十分あり、よく知っているはずなのに、
わからなくなって迷ってします場合。
初めて行った場所で道がわからなくなる場合、
初めての場合は別に不思議なことではありませんし、
方向オンチとは違う話と考えるかもしれません。
しかし、事前に地図やさまざまな情報を得ているにもかかわらず
迷ってしまうような場合があります。
方向オンチになったと思う場面としてあげたこの二つの違いは、
過去に行ったときの道に関する記憶があるかどうかです。
記憶がうまく使えていないのか、あるいは、
そもそも記憶されていない可能性があります。

遠く感じる距離・近く感じる距離

遠く感じる距離・近く感じる距離

人が頭の中で作り上げる認知地図と
実際の地図の相違点でもっとも興味深いのが、
自分のいるところからある場所までどれぐらい離れているかという
心理的な距離の感覚が正確ではないということです。
認知距離は重要な概念です。
なぜなら認知距離は、人の行動範囲と深く関わりがあるからです。


心理的距離が行動を決めるというのではなく、
交通の便であるとか、そこに行く必要があるかないかなどが
この認知距離の大小に影響していると考えられています。
認知距離の研究で、街の中心部は周辺部より近く感じるということ。
つまり、街の中心に向かうとき距離は小さく感じられ、
その反対に外に向かう場合は、大きく見積もられるのです。
また人が移動しているときに、通った曲がり角や交差点が多いほど
長い距離を移動したと思いがちであるということも知られています。
一般に、道を歩いているときには、長く歩けば歩くほど
外界から得る情報は多くなります。
したがって、私たちは一般に距離と情報料が比例していると
考えてしまう傾向があります。

認知地図と地図の違い

認知地図と地図の違い

認知地図という名前から、多くの人は実際の物理的な空間を
反映した地図のようなものが、
そのまま頭の中に入っていると思うかもしれませんが、
多くの研究者は、認知地図は実際の地図とは異なるということを示しています。
あなたの住んでいる街を詳細に思い描いて、
その頭の中の街の地図上で家から最寄りの駅までの経路をたどってみてください。
さてあなたが思い描いた地図、これが認知地図になります。
あなたが思い描いた地図を見直してみると、
実際の物理環境をそのまま写し取ったものではなく、
さまざまな点で不完全であり、道路や空間を自分にとって
理解しやすいように単純化している。

私たちは二本の道路が並んでいれば、
その二本は平行していると思ったり、道が少しくらいカーブしていても、
まっすぐであると思いがちです。
もっともよくある思い違いは、交差点の形を誤解することです。
直角より小さな角度で交わっている交差点の交差角度を
大きく見積もる傾向に、逆に直角より大きな交差点は
小さく見積もる傾向があります。
つまりもとの角度がどうであれ、交差点は直角に
交わっているものだと思いがちなのです。
そのため、いくつか交差点を通りすぎたあとで地図を描いてみると、
これまでに通った交差点が直角に交わっていると思い込んでしまうので、
出発点と現在地の位置関係がズレてしまうのです。

外界と知識のつながり

外界と知識のつながり

人が街の中を移動するときに、
他の動物ともっとも異なっているのは、
人は自分がいる場所に関する空間的な活計をなんらかの形で
知識として理解しており、その理解に基づいて道を選んだり、
方角の判断をしたり、自分のいる場所を
他人に伝えたりしているということです。
それでは、いったいそこで使われている空間的な知識とは
どのようなもので、どのような特微を持っているのでしょうか。

頭の中にある地図
1、生き方の順序の説明
2、略図を使った説明
私たちの空間に関する情報も、このいずれかの形で
頭の中に入っていると考えられています。
これは、空間に関する地理的な情報をまとめたもの、
すなわち地図ですから、これを「頭の中の地図」
専門用語では「認知地図」と呼んでいます。
さらに、道順をそのまま記述するタイプのものを
「ルートマップ型の認知地図」、地図のようなタオぷを
「サーベイマップ型の認知地図」と呼んでいます。
ルートマップ、サーベイマップという言葉は、
それぞれ地図の世界でよく使われる言葉です。

人は地磁気を感じとれるのか

人は地磁気を感じとれるのか

地磁気を感じ取りそれを移動に利用している動物のように、
人間にも同様な能力があるのだという説を唱えた学者もいます。
現在では必ずしも有力な説とは言えませんが、
人間も動物と同じように地磁気を感じ取って方向を
判断することができると信じられていた時期もありました。
人間の頭の中の磁気センサーが地磁気を感じ取り、
自分のもといた場所の方向を指さすことができるというのです。
この説は、次のような実験が行われました。

まず目隠しをしてバスに乗ります。
バスは街の中のいろいろなところを
移動し最終目的地でバスから降ります。
そこで、出発点はどちらの方角かを指さす実験です。
多くの人が出発点のある方向をおおむね性格に
指さすことが出来たというのです。
さらに興味深いのが、被験者の何人かに
磁石入りのヘルメットをかぶらしていました。
これは地磁気の影響を乱すためです。
この被験者が指さす方向は間違っていました。
しかし、その間違いはでたらめではなく、
磁石のNS極をどの向きにつけるかによって、
体系的に歪んでいたということから、
人も地磁気を感じ利用しているという結論に達しました。
しかし、同じような実験を行った追試の結果が
必ずしも一貫しないことから、その後、
あまり研究は進んでいないようです。

本能としての渡りと帰巣行動

本能としての渡りと帰巣行動

鮭が生まれた川に戻ってきたり、
春に北に飛んで行った白鳥が秋に戻ってきたりするのを
見ることがあります。
鮭や白鳥は地図を見ているわけではなく、
案内人に従っているわけでもありません。
こうした能力は本能的な行動であると言われ、
生まれた時から遺伝的に組み込まれた能力によって
実現されていると考えられています。
ミツバチは、太陽の位置や地磁気、
さらには太陽の光の中に含まれている情報等を利用して
巣に戻ることができると言われています。

アリも、太陽の光を利用していると言われています。
アリが太陽の方向にある巣に戻っている途中に、鏡を使って太陽の光を
後ろから照らすと、アリはUターンして逆方向に進むようになります。
これは、アリが太陽の光の方向を利用していることを示しています。
また、ヒキガエルは毎年同じ池に卵を産みに帰ってきますが、
この場合はそれぞれの池が持っている独特なにおいが
手がかりになっているようです。
これらの動物は、人間には利用できない
自然からのさまざまな情報を利用して、自分の生まれた場所、
自分の巣に戻ることが出来るのです。

動物と方向オンチ

動物と方向オンチ

人は自分の周りの空間をどのように認識しているかなどを
考えてきましたが、ここではミツバチや鳩などが
遠く離れたところから自分の巣に戻る行動を考えてみましょう。
ミツバチは何キロも離れたところにある花の蜜を吸い、
自分の巣に迷わずに戻ってくることが出来ます。
なぜ、ミツバチはこんな遠く離れた場所から
迷わず戻ってくることができるのでしょうか。
また、巣から離れた場所で放たれたレース鳩も、
自分の巣を目指して戻ってくることができます。

最近では、水族館の排水路から放流された鮭の稚魚が数年後に、
その排水路を遡って水族館の管内の水槽まで
戻ってきたという事例も観察されています。
動物たちのこれらの能力は「帰巣本能」と呼ばれ、
古来、動物の持つ不思議な本能として興味の対象となっています。
こうした動物の能力についてどのような研究がなされてきたのか、
考えるのも興味深いことです。

方向オンチのどこが謎なのか3

方向オンチということが、外国では関心を集めないのでしょうか。
まず、日本語でいう「方向オンチ」に相当する
ぴったりの言葉が英語には存在しないようなのです。
もちろん英語を話す人が道に迷わないというわけではありません。
英語を母国語としているアメリカ人に聞くと、
ぴったりとした言葉は存在しないが、
“I have no sense of direction”と言えば意味は通じるとのことでした。
日本語に直訳すれば「方向感覚が悪い」といったニュアンスです。
これでもまだネガティブな印象を与えるため、
普通は「私は道に迷いやすい=I get lost easily」とか
「私は地図がうまく読めない=I have trouble with maps」
という言い方をするようです。

ちなみに、“no sense of direction”という言葉は、
道を歩いていて迷うというだけではなく、
より哲学的・宗教的な意味で、
人生において進むべき道がわからなくなった、
というようなときにも使われるようです。
日本語でも「人生に迷う」という言い方もありますから、
その点では似ているところがあるのかもしれません。

方向オンチのどこが謎なのか2

方向オンチのどこが謎なのか

【社交】
なぜ人は方向オンチについて語るのを好むのだろうか?
方向オンチについてのイメージがどうであれ、
一般に人々はこの方向オンチの話題を好むようです。

【他の場面への転化】
他の世界(分野)においても迷いやすいのだろうか?
空間的なイメージを必要とする作業は、
街の中の移動だけではありません。
最近では、ネットのような仮想的な空間のなかでも前に
訪問したページの場所を忘れてしまったり、
迷子になったりしやすいのだろうか。

【文化】
日本に特殊なものなのだろうか?
日本では、道に迷ってたいへんだったと言ったエピソードがよく話題になるが、
海外に行ったとき、こういう話をすると外国の人たちはとても不思議がります。
日本人は、なぜ迷って困った話をするのか、
何のために自分が迷いやすいと言った自己紹介をするのか。
これらのことは外国の人にとっては理解しがたいことのようです。
「失敗の経験・ネガティブな情報なのに、自慢するかのように人前で話す」
外国の人がわからないというのは、その理由なのです。

2012年5月29日火曜日

方向オンチのどこが謎なのか1

方向オンチのどこが謎なのか

【個人の能力】
方向オンチは、人の特別な能力と言えるのだろうか?
なんらかの能力に関係しているような気はします。
しかし自分が方向オンチだという人の知的能力が
劣っているわけではありません。
「知能」が多様な要素から成り立っているように、
方向オンチも多様な要素の組み合わせの結果なのかもしれません。

【性別】
男性と女性ではどちらが方向オンチと言いたがるのだろう?
これまでの経験では、女性の方が自分を方向オンチで
あると言いたがるようです。
男性と女性では、程度が異なるのだろうか?
ある説では、「昔、男は遠いところまで狩りに行って
帰ってこなければならなかったので、
男は方向オンチでは生き残れなかった」とあります。

【社会的イメージ】
方向オンチであることは、その人にとって不利益なのだろうか?
困ることの方が多いはずです。また、道を教えられても
それをうまく覚えることが出来ないというのは、
能力の低さを告白しているようなもので、
その意味は、マイナスのイメージがあります。

なぜ方向オンチは興味を惹くのか

なぜ方向オンチは興味を惹くのか

おそらくあなたも、「方向オンチ」に
興味を持ていると思いますが、
しかし、いったい方向オンチのどこに
私たちは興味を惹かれるのでしょうか?
最近では、ホームページを開いている人もたくさんいます。
そこで「方向オンチ」をキーワードとして検索してみると、
非常にたくさんのページが見つかります。
その多くが自己紹介のページで自分のことを
「方向オンチである」と紹介しています。
そうしたページの作者の多くは女性のようです。

方向オンチは女性の方が多いのでしょうか?
また、方向オンチであると宣伝して
何かメリットがあるとも思えないのに、
こんなに多くの人が宣伝するのはなぜでしょう。
中には、「自分は方向オンチで困っている」
と嘆いている人もいます。
方向オンチには、謎が多くあり誰しもが、
その謎に興味を持ち、惹かれてしまうのではないだろうか。

方向オンチって本当にあるの?

方向オンチって本当にあるの?

世の中には、自分が方向オンチであると
思っている人はたくさんいます。
あなた自身も自分は方向オンチだと思っているのかもしれません。
自分が方向オンチなのかどうか、
どれくらいひどい方向オンチなのか、
知能指数や視力のような客観的な測定方法があるのか知りたいと
思っている人もいるかもしれません。
しかしこれまでの説明からもわかるように、
いろいろな評価方が提案されているにもかかわらず、
まだ確立したものはありません。

また方向オンチに興味を持ってくる人たちがたくさんいます。
興味深いのは自分が方向オンチであると判断するエピソードと、
他の人が方向オンチであると判断するときとでは、
その基準が若干異なっていることです。
自分が道を間違えたときは「ついうっかり」で済ませてしまうのに、
友達が間違えると「あの人は方向オンチで困る」
と非難したりする人もいます。
客観的に測定できるものであれば、
こうした自他の違いは出にくいと考えられますが、
方向オンチを自分に当てはめる基準と他人に
当てはめる基準はことなるようです。

実際に異動による判定

実際に異動による判定

やはり人が「方向オンチ」かどうか調べるためには、
実際に人を移動させてみるのが一番です。
なぜなら、多くの人は街の中をうまく移動できない人を
「方向オンチ」だと思っているからです。
しかし、実際に街を移動してもらうのは、結構大変な実験になります。
街の中はいろんな人が生活しているため、
一人目と二人目では状況が変わってしますことがあるからです。

しかし実験条件の統制がとれなくても、街の中を歩いてもらった際に
彼らがどのような困難に陥り、そこからどのように
抜け出そうとするのかを調べることは、非常に興味深いことです。
迷う様子だけでなく、実際に人が街の中を歩いているとき、
どのような情報に注目し、どのような情報を見落とすのか、
またある地点で曲がるか曲がらないかの判断をするのは、
どのような手掛かりに基づいているのかなどを調べることは、
私たちが異動するために持っている知識や、
街に関して持っているイメージを知る為に非常に役立ちます。

見えない目的地の方向を当てる

見えない目的地の方向を当てる

あなたが今居てる場所から見えな場所を
一つ思い浮かべてみてください。
たとえば、最寄りの駅・学校や勤務先などをです。

さて、問題です。
その思い浮かべた駅や学校・勤務先はあなたから
見てどちらの方向にありますか?
それらが位置する方向を指で指してください。
これが「方向定位」と呼ばれる課題です。

「地下鉄から出てすぐに目的地を探すのではあるまいし、
こんな簡単な問題を間違えるわけがない」と思うかもしれません。
でも、あなたが指した方向は本当に正しいでしょうか。
実験によると、実際の方向と人が指し示す方向の間の角度の誤差は、
かなりあることが知られています。
自分では正しい方向を指していると思っていても、
結構ずれていることが多いのです。
そもそも、あなたは「北の方向」はどちらか、わかりますか?
できれば、指を指した方向を方位磁石や地図で照らし合わせてみてください。

自己評価による判定

自己評価による判定

自分が「方向オンチ」かどうか考えてみてください。
これは単純ですが、いちばんわかりやすい「方向オンチ」の指標です。
1、あなたは、どの程度方向感覚が良いですか?
1(悪い)・4(普通)・7(良い)(7段階)
2、あなたは、道に迷って困ることがありますか?
1(悪い)・4(普通)・7(良い)(7段階)

どちらの質問にも、1と答えた方は、おそらく「方向オンチ」である
可能性が高いと言えるでしょう。
しかしこの方法の問題点は明らかです。
自分で自分のことを評価しているだけなので、客観的に自分が、
「方向感覚がよいのかどうか」「困っているのかどうか」がよくわかりません。
1と答えた人の方が3と答えた人より方向オンチの程度が
ひどいのかどうかも定かではありません。
わかるのは、この人が自分のことを方向オンチだと
思っているらしいということだけです。
自己評価による判定だけでなく、他の客観的な測定方法が必要になります。

2012年5月25日金曜日

自分が方向オンチかどうか

自分が方向オンチかどうか、どうしたらわかるのでしょうか。
私たちは地球という三次元の空間の中で生活しています。
たいていは地上の平面(二次元)上を移動しますが、
都市生活では地下街や地下鉄、
高層ビルなどの上下方向を含めた三次元空間を移動しなければなりません。
そうした空間内を移動するためには、自分がどこにいて、
目的地はどこで、
目的地に行くためにはどちらに異動したらよいのかなどを理解し、
表現し、実際に行動する能力が必要です。
こうした能力を、空間能力と呼びます。

方向オンチもこの空間能力の一部に関わっていると考えれています。
空間能力を測定する手法が、
1、方向オンチかどうかを自己評価するもの
2、見えない目的地の方向を指し示す能力を調べる
3、頭の中で空間的な情報を処理する空間認知能力を調べる
4、実際に異動させてその成績から判断する
などがあります。

2012年5月24日木曜日

世の中の半数以上の人が方向オンチ

一般に方向が分からない人が方向オンチと思われています。
これはある種の能力に関係しています。
でも、方向オンチだと思っている人はいつも道に迷っているのでしょうか・
一方、「方向オンチ」を語ることが好きな人たちがいます。
ある研究では、多くの人が「実は私も方向オンチなんです」と言って、
体験談を話しています。
まるで世の中の半数以上の人が方向オンチなのではないかとおもえるほどに。
このように、方向オンチという言葉は一般に根づいているようですが、
本当に正しく理解しているのか疑問があります。
方向オンチについてさまざまな視点から考えてみましょう。
方向オンチにまつわるいろいろなエピソードをもとに
自分が方向オンチかどうかを考え、
科学的にはどのようにとらえられているか知ることが大切です。
人がどのように街を移動しているのか、とりわけ道を覚えるということ、
道を見つけるという視点から、認知的な側面に注目してみましょう。

なお、方向オンチを単に街の中での移動に関わるものとして
位置づけるだけではなく、もう少し広い範囲で、
具体的には、技術の学習という視点
(すなわち、何かをする能力を身につける)からとらえてみたい。
そうすることによって、方向オンチだけでなく、
ビデオの予約が出来ない、コンピューターが怖いと言った、
「機会オンチ」とつながる視点を提出できるのではないでしょうか。
そして方向オンチから抜け出すための認知科学からのアドバイスを紹介します。
なお、「方向オンチとは何か」という疑問をわずかでも解明できると思います。